14:09
クリスマスは街に出るもんじゃない。
コンビニで曲テロに遭う。BOAの「メリクリ」だ。
急いで耳に栓をして、失礼と思いつつも耐えきれずにそのままレジでお金を払い足早に出た。
16:49
仕事先を早足で出る。16時半の山手線品川回りに乗れば、品川から横須賀線の直通で家に帰れる。100%の集中力を要される1時間半のインタビューを数本やったので、とても疲れていた。
恵比寿駅西口方面から駅構内に入る直前にあるロッカーゾーン。今もたびたび思い出す、このロッカーに寄りかかってこちらを見上げた、初めて出会ったあの夏の日の奏くんの姿。その3年後の12月25日、7年前の今日に、プロポーズされたんだ。
7年後の今日、そのロッカーの横を、できるだけまっすぐに前を見て、ひとり足早に通り抜ける。
泣かない。表情だって、変わらない。
乗り換えを急ぐ品川駅で、臨時のクリスマスケーキ売り場の賑わいを足早に通り抜ける。
あ。
私、なにかきっかけがあったら泣いちゃう感じだ、今。
そうか。これが記念日反応か。
昨日あれだけ泣いたのも、それだったのかもしれない。なんというか、平場の状態が、危うい。脆い。
空には厚い雪雲。しっかりと冷えて色を失くした世界に、静かに静かに雪が降り積もっていく。不安な気持ちに、思い出がよぎる。表情を変えず、視線を落として、ただ、受け止めるのみだ。暖かさなんて、欲しくない。そんなのが来たら、雪は一気に溶け出して、水となって溢れ出してしまう。
17:57
奏くんがいないことに、慣れている自分がいる。
それでも、その不在を含む現実への違和感は、今でも、いつでも、「ここ」にある。
本当に、腹も立つ。いなくなっちゃうだなんて。すべてを置いて、いなくなっちゃうだなんて。どうしたらいいのか、わからないじゃない。
夕飯、どうしよう。
スーパーには、「家族」を否応なしに感じさせるだろうスーパーには、足を踏み入れたくない。
でも、レトルトのカレーとかはちょっと…。お昼もコンビニだったし。食べに行くのもいやだし。野菜全然無いし。あぁ、失敗したなぁ…。
20:30
夕飯は、熱したニンニクと唐辛子に Ca va 缶(レモンバジル味)と十穀米を合わせて炒め、そこに広島のお醤油を仕上げに回しかけ、サラダを添えて食べた。白ワインも飲み、食後に紅まどんなを食べた。
皮をゴミ箱に捨てる。足がゴミ箱にぶつかって、大きい音を立てた。スナフィが飛び出してきてそれに吠える。
吠え続けるスナフィの側に寄って、撫でてぎゅっと抱きしめた。傾いた体、視線の先、写真立て中の奏くんが微笑みかけた。
I miss you so much.
時の流れは残酷で、奏くんのいた日々が、とおく、とおくになっていく。私の記憶が、ぼんやりぼんやりとしていく。
I miss you so much, so bad, so bad and so bad.
立ち上がらなきゃ。お皿を洗わなきゃ。シャワーを、いや、お風呂に入って、早く寝なきゃ。明日は早くからやらないといけないことがあるじゃない。
もうすぐ、4ヶ月になる。
そして、もうすぐ、入籍記念日の1月1日がくる。2012年の1月1日。葉山町役場に、一緒に出しに行った入籍の届け。
苦しい、苦しい
悲しい、苦しい、苦しい
やりきれない
いまだったら、もっとしあわせにできるのに
いまだったらあなたのことを
もっともっと
もっと
しあわせにしてあげられるのに
きっとあと1年くらいすれば、人が、ひとりで生きているということを、ひとりで死んでいくということを、もっと自然に捉えられているんじゃないかと思っている。
それにはまだ、時間がかかる。