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時は流れる。
NHKのスイッチインタビューで、カラテカの矢部太郎さんが出ている回を観た。矢部太郎さんといえばお笑い芸人「カラテカ」のボケとしても有名だけれど、「大家さんと僕」という手塚治虫文化賞をも受賞した漫画の作者かつ主人公としての存在感が際立つ。
「一緒に旅行するほど仲良くなった」という大家さんを、8月に亡くされたばかりという矢部太郎さんは、番組収録当時もその大きな喪失と戸惑いのなかにいるようだった。
時は流れる。
桜並木に縁取られた田んぼが、季節の風景をつくる。満開の桜は散って、水が張られた田んぼに青い空が映る。天は地となり地は天となる、美しい青い春。青い春は短い。新苗の緑色が青い田んぼに無数の線を引き、気づけば、成長した稲が風を描く美しい緑の夏がくる。あの夏。天は高さを日毎に増して、黄金色の秋がきたと思ったら、ベージュ色の長い冬の風景が訪れる。
時が流れる。
そう、矢部太郎さんも言っていた。
来年の今頃は、きっと今感じている考えていることも忘れちゃったりするだろうから、今描かないと、と。どうしたら良いのかわからない自分に、そう声をかけているようにも見えた。
奏くん。
奏くんのいない暮らしに徐々に慣れ、新たな自分のペースをつくり上げている自分に、ふと気がつく。その哀しみに、無常さに、打たれる。
奏くん。奏くん。奏くん。
名前を呼びたい。
名前を呼んでも、行く宛もない。
名前を呼びたい。
奏くんに、「奏くん」って呼びかけたい。そして、それを受け止めてほしい。
発したその名前は、霧のように消えていく。