19:15
Joshにまたねを言って、外に出た。
18時を過ぎ、街はもう暗い。3歳くらいの子供の手を引いた同じ年くらいの女性とすれ違う。沙子も、子どもたちを迎えにオフィスを走って出て行った。私は今から家に帰る。そこに、私を待つ人はいない。首を長くして待っているスナフィの元に、早く帰らないとと思う。でも「寂しいな」と思ってしまう。それも、猛烈に。
今日はずっと誰かと会っていた。寂しくなんて、なかったはずだ。
なのに寂しい。
やっぱり「家族」は特別なんだ。家族を失うとは、こんなにも、…。
新しい家族が今まさに増えようという同僚のその高揚の表情を思い出す。Life goes on. もちろん、同僚のことをとても喜んでいる自分だっている。Life goes on.
iPhoneが鳴る。父だった。なんてことない所用だったけれども、「家族」とのやり取りに、寂寞としていた気持ちは幾分薄まっていた。
不思議なタイミングが、ここ数ヶ月は溢れている。
…奏くんだったり、するの?
なんて思った途端だ。感情の波がどっぷりとまたやって来そうになって、危ない危ない、まだ電車待ちの列にいるのだ。いきなり泣き出したりなんて、できない。
20:46
たぶん、私自身が、私の親友になるときなのだろう。
奏くんは、パートナーであると同時に、もっとも私を理解している親友でもあった。
もっとも気にかけてくれ、慰めてくれ、ともにいる時間は癒しであり、私は心から安らいでいた。いつでもそこにいて耳を傾けてくれて、インスピレーションを与えてくれた。
不在となった、私のそんな存在に、私自身がなろう。
22:47
泣いた。わんわん泣いた。
まず、疲れて帰ってきたら、玄関の鍵が開いていたのだ。焦りと怖さ。まじか自分。
今朝は確かに気もそぞろだった。午前3時半まで仕事して5時就寝の10時起床で、急いで支度して急いで出かけた。そんな調子だから、鍵をかけ忘れたのだろう。
からの。
京葉線ホーム近くの成城石井で買ったカレーのルーの少なさにちょっとがっかりしながら、あまり面白くないNetflixの食番組を観ながら夕飯を食べ終わると、テレビ下の奏くんの写真が目に入った。
全然考えていなかったのに、なぜかこれがクリティカルヒット。わーっと泣き出した。
奏くんがいつも座っていた場所。そこに奏くんがいたら、触れられたら、抱きつけたら。その存在と肉体が猛烈に恋しくて恋しくて、わんわん泣いた。
泣き慣れている(?)最近では、思い切り泣くようになった。もう何も気にせず、顔をくしゃくしゃにして思い切り泣く。すると、早めに泣き疲れて、早めに泣き止むのだ。
からの。
寝室のある二階に上がる。スナフィの新しいシートを取りに、屋根裏収納のドアを開けた。
!
電気がついている…!
しかも、10mほどある屋根裏収納の一番奥の電気だけが。
もちろん点けた記憶はない。
前回ここを開けたのは…?ストーブをチェックするために開けた時か。それはいつだっただろう。長野に行く前?後?いや、灯油を出そうとした時?その日はCafe NOLに行ったのだから、長野後の先週の土曜日か。でも…電気点けた記憶はないのだ。しかも、一番奥には入ってもいない。
玄関の鍵が開いていたことが勝手に繋がった。もしかして、この屋根裏に誰か潜んでるんじゃ…!
震えだす寸前に、追い打ちがかかった。
ベッドの真上から突然音がしたのだ。天井と壁の間くらいから、次に、窓のあるほうの壁、同じような高さのところから。
一気に震え上がり、また泣き始めた。こわいこわいこわい…。
ご近所の梨衣ちゃんにSOSを出す。こわいよー!
そして寝る間際、奏くんに心のなかで叫んだ。
もうこわすぎるよ!
もしこれが奏くんだったら夢に出てきてよね!、と。