23:36
歌うということを忘れていた。半年もの間。
洗濯物を畳みながら、昨夜の紀亜がプレイバックしていた。映画「ラ・ラ・ランド」の曲を流し歌っているその姿。歌うことや踊ることに、彼女はいま熱を持っている。最近作った、作品としてのバンドライブの動画も見せてもらったり。歌いながら、彼女は言った。
「歌ったらいいんだよ」
そのプレイバックに、洗濯物を畳む手が止まった。
気づいたんだ。
「歌う」なんて、ずっと忘れていた。半年もの間、それは私の世界に存在していなかった。
本当に驚いた。驚きは体中をぐるぐる巡って、少し酔っぱらったようになった。
23:55
今日もまた「信じられないよ」が浮かんでくる。
「信じられない」なんて、あの日あの時のあの瞬間から一度たりとも本気で思ったことなんて無い。目の前で起こっていることは現実以外の何ものでもない。この手この身体、この私のすべてで、その現実に生きてきた。
なのに、半年が経ってなお、その言葉は浮かんでくる。しばらくそこに漂って、日常に席を譲って消えていく。
ただただ、時間がかかるのだ。