4:17
やっと会えたね。
奏くんが夢に出てきた。ひとり寝ようとして、気づいたら隣で奏くんが優しく微笑んでいた。ふわっとしたその身体に、そっと抱きつく。彼はすぐに起き上がり「別の私が眠るところ」を探しに行く。着いたのはカプセルのようなところだった。奏くんは側にいてくれたし、触れている感覚もあったけれど、それが奏くんかどうかはもうわからなかった。
「やっと会えたね」。目が覚めて、声にならない声が出た。目を閉じる。少しでもいい。その微笑みを、その姿を、もう一度味わわせて。「その感触」を「その記憶」を手繰り寄せたい。
少しでも会えて嬉しいよ。また、会いたいよ。
朝も夜も、夜明け前も、いつだって悲しい。あの夜明け前を思い出すこの時間は、なかなか眠りに戻れない。やっぱり睡眠導入剤、あると良いかもしれない。
10:00
誕生日メッセージに返信をする。やっとその気力が出た。少し元気が出て「音楽聴きたいな」と初めて思った。歌詞のある曲、奏くんを思い出しそうな曲(これまで聴いたほとんどの曲がこれにあたる)は聴けない。選曲の難しさよ…。
今日は弟の隆が来てくれる。音楽かけて、タオル類干して、お皿洗おう。ごはんも食べないと。食べれれば。
25:02
夏時期と冬時期で、寝室を入れ替えている。クーラーがある部屋とない部屋があるためだ。ひとりではベッドを動かせない。隆が来るタイミングでやらなければ。でもそれをしてしまえば、奏くんと一緒に寝ていたあの寝室には、もう戻れなくなる。
「このタイミングでやらなくては」に突き動かされ、マットレスからベッドフレーム、ひとつずつ冬時期の寝室へと移動させる。ふたりでやると早い。あっという間に出来上がった冬時期の寝室。ひとつのベッドが、ぽつんとそこにあった。わかっていたはずなのに。なのに、その光景にショックを受けていた。私はなにをやっているんだろう。なにを焦っているんだろう。心がついてきてないのに。
結局は、ベッドの横にシングルのマットレスを並べた。今は隆がそこで眠っている。スナフィーも一緒に。
.
祭壇の前で、隆の気持ちも聞いた。奏くんとの思い出に、悲しく涙した日々のこと。大事なときに何もできなかったこと(アメリカ旅行中だった)。病院にも会いに行かずじまいだったこと。「これからが大変だから、ここからサポートしてもらえると嬉しい」と伝えた。ここまでは、茉奈とお父さんが支えてくれていたから。
夕飯には、お肉屋さんで買ってきたステーキ用のランプ肉を真剣に焼いて、ふたりで美味しく頂いた。幸せだと思った。この「感じ」を、奏くんにもなんとか味あわせてあげられたらな。遺骨を思い浮かべていた。
.
秋が来て再び寝室となったこの部屋に、最も休める空間を作ろう。自分のために。
奏くん。いまはどこにいるのだろう。
心の中でその名を呼ぶと、胸がきゅっとしまって苦しくなる。言葉にして呼びかけたい。奏くん。もっと、生きたかったよね。私もずっとずっと、一緒に生きていきたかったよ。