「おはよう!」06:42
「昨夜なんとか一人トイレット成功」06:55
「ごはんばべます」08:14
目が覚めると、嬉しいLineが来ていた。「一人トイレット」、一人トイレットだなんて、感無量。
「pineapple激ウマ」
続く朝ごはん報告。
「何時にくる?」に、「いろいろやって12時半頃かな」、と答えた。
「水がないです、たくさん」
「先生がおれだけ一日一個ヨーグルトOK」
「よろぴく」
追加のLineが来たので、病院への道中にあるスーパーに寄る。
お水をたくさんと、ヨーグルトをたくさん。
ヨーグルトの品揃えを求めてスーパーをハシゴする。いろんな味が楽しめる4パックか。体に良さそうなハチミツか。はたまた高機能に行くか。いや、奏くんはやはりフルーツが入っている方が…。待てよ、冷蔵庫のサイズ、どのくらいだったかな。…4セットくらい行ける?そうだ、パイナップルも買っていってあげたりして。
うんうん悩んでいたら、いつの間にか結構な時間が経っていた。ただでさえ出発が大幅に遅れたというのに、まずい、このままでは到着が13時を過ぎてしまう…!またやってしまった…!
奏くんの病室にたどり着いた頃には、13時半を回っていた。
ドアを開けると、ベッドに横になって、静かにテレビを見ている奏くんの姿があった。…なんか、エネルギーもテンションも低い。
14:05
「小西さーん」
成田赤十字の看護師さん達は、それぞれに個性がありながら、優しくて素敵で、皆いかにも白衣の天使だった。中でも、明るくサバサバ良い感じで、奏くんも一番気を許している看護師さんが入ってきた。
熱を測ったり、諸々チェックをしながら、「昨夜ひとりでトイレ出来たんですよ」と、嬉しそうに教えてくれる。
「10kg以上痩せたんだよねー」と笑顔で奏くんに言う。
「90kg?92kg?とかになった」と奏くん。
「え?むしろ102とかあったの!?」なんて私も言いつつ、「いや、確かにシュッとしたよ」
「ですよね!」と看護師さん。
「え、俺も見たい。写真撮って見せてよ」
いい流れ…!心配してくれている人はたくさんいる。奏くんの写真を見せられたらな、と思う一方で、奏くんの心情を思うと撮りづらかった。看護師さんありがとう!
写真を撮って奏くんに見せる。
「…Dre じゃん、俺 Dr. Dre じゃない?」
Da da da da da – the next episode が流れた。
15:03
ちょっと休憩、少し眠る、ということになったので、一度病院を出た。最近の定番、味の民芸で、今はランチが来るのを待っている。
あの後、看護師さんが教えてくれた。
「12時半には零が来るから」
奏くんは車椅子に頑張って乗って、初めてお昼ご飯を食べた。その姿を見せたくて、1時間半も頑張っていた。
だから私が到着した時に、あれだけ疲れた様子だったのか。申し訳なくてどうしようもなかった。
成田で再びのスーパーに寄る。
おかゆが食べれるようになった。はずが、おかゆだけだと進まない。その様子を見た先生から「ごはんのお供OK、ただし減塩で」と、ファンタスティックなお許しが出た。
奏くんが大好きなごま昆布(減塩)と鮭フレーク(減塩)、定番のご飯ですよ(減塩)など、こちらもいくつか取り揃える。これだけあれば、ご飯も楽しめるだろう(ていうか食べるだろう、食べてくれ)。
看護師さんから頼まれていたストローも何種類か買う。いかにも病人ムードのある「くすりのみ」で水を飲んでいた日々を、とうとう卒業なのだ。ペットボトルに入った水を、ストローでそのまま飲めるのだ。
16:30
穏やかな土曜日。透析が無いから奏くんも穏やか。外来が無いからか病院自体も何処か穏やか。
奏くんの体にどんなことがあったのか、この1ヶ月の出来事を、ゆっくりと話した。
奏くんの意識が、完全に戻った。
手術からちょうど1ヶ月の今日、初めてそう思えた。
これが重い、あれも重い。いかに筋肉が無いのか。現状を認識したようだった。寝返りを打つだけで疲れてしまう。腹筋が無いから、トイレが怖い。
体の筋肉がリセットされてしまった、そう言われても、最初は半信半疑だった。だから、「帰りたい」、とか言っていた。本当に動かないんだ。そう認識したのは先週くらい、と。
17:15
「ちょっといいですか?」
廊下で看護師さんに呼び止められ、そのまま立ち話をする。
- 重症患者ではなくなったので、部屋を変わる必要がある。大部屋(4人部屋)だと差額なし。2人部屋は差額3000円。個室は7000円〜1万円。検討しておいて欲しい。病院での療養生活は、あと一ヶ月くらい。
- リハビリも頑張っているから、来週には立てる練習に入れるんじゃないか。若いから筋肉も戻りが早い。
- 一時全く出ていなかった尿。(この時に初めて、「回復するか分からなかった」と聞いた。)十分に出るようになったので、人工透析離脱が見えて来ている。離脱のタイミングが退院または転院のタイミング。転院の場合はリハビリ病院へ。
「大部屋」…!興奮で爆発しそう。
病室に戻り、「大部屋に移れるんだって!」と、個室オプションなども合わせて奏くんに伝える。奏くんが言った。
「大部屋でいいでしょ」
「ご飯食べるまでいてよ」
スナフィーごめんね…、と、心の中では言いながら、「うん、じゃあそうする」と答えた。長居できて幸せ。土曜日最高。
夕ご飯はペーストではない普通の食事。まだスプーンが重い、箸が難しい奏くんのために、食事を手伝う。静かで、幸せな時が流れる。
食べ終えて少しゆっくりしてから、「スナフィーも待ってるし、そろそろ帰るね」と立ち上がった。
奏くんの唇に目が止まった。人工呼吸器で出来た傷も、だいぶ治った。
キスをしたい。
体の奥から上がってきた熱があった。
でも。
まだまだ体が弱い状態。私にはなんでもない菌でも今の奏くんには、ということだってある。思い止まって、いつも通り、額にキスをした。
「I love you」
その言葉が、体内で響いていた。私自体がもうそれになっていたのに、言葉として声にするのがなんだか恥ずかしくなってしまって、言えなかった。声に、ならなかった。
病室のドアを開ける。
振り返る。
「またね」
奏くんがそう言って手を振っていた。