病院での1ヶ月

「フルーツとヨーグルトのパーティ」

仕事を15時半頃には終えて、茉奈と病院に向かった。

「奏さん、お家に帰ったら食べたいものありますか?」そう茉奈が聞くと、

「朝はフルーツとアサイーヨーグルト。帰ったらフルーツとヨーグルトのパーティがしたい」

「フルーツとヨーグルトのパーティ?」

パイナップルとかアサイーボールをみんなで楽しむというそのパーティ。「素敵」「いいねいいね」と、茉奈と奏くんが盛り上がる。

「今まで食べてきたものじゃなくて、朝はフルーツとかヨーグルトとか、健康的な生活をしたい」と奏くん。

ここでヨーグルトスイッチが ON に。

「ちょっと零さ、ヨーグルト買ってきてよ、3人分」

「…でもほら、まだペースト食だし、良くなるためには食事管理が今は大事だからさ」真面目な私が前面に出る。

「いいじゃん、ちょっとくらい」「いいからいいから」「大丈夫だから」

子供か。何この絶対引き下がりませんな感じ…!

「病院のご飯に飽きたんだよ」

「ご飯」とは言うものの、まだ普通食ではなくペースト食。全ての品が、ペースト状で出てくる。デザートのパンナコッタっぽいものは好んで食べていたけど、それ以外、何だかわからないペーストのおかずにはほぼ手を付けない。

とは言え、悪性高熱症とその合併症に翻弄されていたけれど本丸は大動脈解離。食事管理は重要で、命にも関わる。

「いいじゃん買ってきてくれても」

…あまりに引き下がらない。しかもすでに不機嫌じゃん!何これ。

「ここで3人で食べればいいじゃん」「いいからいいから」

困り果てた。何このわがまま児。

一旦脱出だ!「…じゃあ茉奈と買いに行ってくるね」と病室を出る。

茉奈と廊下を歩く。「どうしよう」「どうしようね」「買ってくるとか言っちゃったけど…」「ダメよね?」「ダメでしょ」「…どうする…?」

看護師さんに間に入ってもらう、という作戦に行き着く。

一縷の希望を携えて「…ヨーグルト、ダメですよね?」と看護師さんに聞く。一旦確認を入れてくれるものの「まだダメでした」。

「いや実は今…」と、この困った状況を話し、看護師さん含めてヨーグルト回避作戦を立てた。

病室に戻る。

「看護師さんに聞いたんだけど、やっぱりまだダメだって」

「は?なんで聞くの?」

奏くんが怒った。

「聞いたらダメって言うに決まってるじゃん、なんでもダメって言うんだよ、わかってないんだよ、あいつら。大丈夫だから、俺は。」

「小西さーん」

良いタイミングで、看護師さんが入ってくる。(仕込みだけど)

体温を測ってもらったりで、なんとか気を一瞬逸らすことに成功。

したかと思った。

「それ何?」

しまった。私が飲んでいたアーモンド効果が見つかってしまった。

「ちょっとちょうだいよ」「いいじゃん、ちょっとだけ」

一難去って、即座にまた一難。

「いや、これは…、あまり美味しくないやつで…」

いつもは砂糖不使用を飲んでいるのに、今日に限って砂糖入り。どう作用するか未知すぎる怖すぎるよ…!でも、奏くんは(またもや)全然引かない…!

「ちょうだいよ」「本当にちょっとにするから」「いいからいいから」

「…本当ーにちょびっとだけだからね。」折れてしまった。もう気力がナッシング。

奏くんがアーモンド効果に口をつけた。

大きな目が、全開になった。ちびまる子ちゃんのまるちゃんの「パァーーーー」のシーン。そこから、良くやるあの変顔、眉毛を上下させてキラキラした目でこっちを見てる…(笑)面白いなぁ、もう(笑)

「何この激ウマドリンク」「もうちょっとだけ」「いいからいいから」

「奏さんって、…あんな感じだっけ?あんなに子供っぽいっていうか、わがまま放題だったっけ…?」

病院からの帰る車の中で、茉奈が言った。

「もともと、奏さんはワガママとか人に見せないよね?…入院生活で、本音が出せるのが身内が来た時間だけなんだろうね。そしたら、まぁそうなるか。今日はそれが出せるくらい、元気だったよね」

元気そうな奏くんの姿に、茉奈は本当に喜んでいた。前回茉奈が奏くんに会ったのは5日のこと。意識もなく、最も死が近くにあると感じた日のことだった。

「あの瀕死の状態から、今日は、奏さんが笑ったりワガママ言ったり怒ったりもして。『健康的に生きる』っていう奏さんの思いもあって、奏さんが『生きている』ってことを、すごく感じられた1日だったよ」

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