11:28
春の匂いがした。
「春が来るまでは。」マントラのように唱えて、ここまで来た。
春は、もう足元に来ている。
憂鬱の混じった戸惑いを抱えている。
23:20
静かな夜に雨の音。弥生の雨に空気は緩んで、ストーブは点けなかった。
冷蔵庫の写真。お気に入りの1枚。声、表情、動き、身体。その細かな記憶を思い出すことが、怖い。思い出に溺れてしまいそうで。奏くん。いつか話してくたよね、海で溺れかけた女性を助けた話。私、溺れそうだったりするよ。今、あなたの助けが必要だよ。
思い出すのが怖いのに、あなたが遠くなっていくのが同じくらいに怖い。
愛するパートナーを悼むプロセス。遺された者は、ありとあらゆる時空間でひとり彼らを想い悼み、そしてそれを重ねる。ただそれだけだ。
強くならないと。ひとりで。
あなたを自分の内に抱いて、ひとり生きていく強さを。