9:09
久しぶりに奏くんの夢を見た。
今夜は夢で会えますように。そう願い眠るのを、最近止めた。するとこうして、夢に出てくるのだ。
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beatsxを左耳に入れて、彼に電話をかける。
コール音が続く。入院先の彼は、全然出ない。留守電にもならない。諦めかけた頃に、繋がった音。
その声は、消えかけの炎を思わせた。弱りきった身体からなんとか出ている、聞いたことのない、でも彼の延長にある声だった。
「負担になるのは本当に嫌だった。絶対に嫌だったのに。」
消えかけの炎が揺らめく。とてもとても、彼らしいと思う。
「でもね、」私は言う。「人は弱さも受け入れて、弱さも含めて、愛していくものだから」。
足元の地面が遠くなっていく。何もできない。落下したら、骨折、いや、それ以上かもしれない。
「ちょっと一回掛け直すから」。焦りながら電話を切った。
「Hey Siri, 地面に下ろして、ゆっくり下ろして」
驚いたことにこれが効いた。ゆっくりと降下し着地する。
ここはどこだ。アメリカ?の田舎?いずれにせよ掛け直さなくては。
再び繋がった向こうからは不服そうな声音。
車で数時間先の病院に入院しているらしい。「今から行こうか?」と言うと、炎は一瞬明るく煌めいた。
「でも…、もう梨くらいしか食べられないから」
炎は消えかかけていた。ギリギリの声は、今まで聞いたことがなかった。手元にある入院先のパンフレットを捲る。これからどうなるのか、不安に巻かれていた。
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目が覚めた。不安は抱いたままだった。
あ、と気がつく。現実はこっちだった。やっぱり、こっちだった。
スナフィが散々アピールしてくる。昨夜夕飯が早かったのだ。「わかったわかったよ。」一階に降りてストーブをつける。ご飯をあげて、一息つく。夢が、まだ私の中にいる。
祈りの一角に座り、お香に火をつける。
梨。梨なら食べられるって、言ってたな。
「声が聞きたい。話せたらいいのに。電話できたらいいのに」と、少し前に、そう繰り返していたのを思い出す。
心を鎮めて、おりんを鳴らす。手を合わせ、目を閉じる。
奏くん。しばらくぶりに声が聞けて、本当に嬉しさが染み入ったよ。「負担になりたくない」と、どこまでもそれを強く持ち続けるところ、本当にらしいよ。
私のことを、あなたの隅から隅までで愛してくれていることを、改めて、私の隅から隅までのすべてで感じられているよ。幸せだなと思うよ。朝から泣けるけど。