11:20 on my way to 八鶴湖
白い坂道が 空まで続いていた
ゆらゆら かげろうが あの子を包む
誰も気づかず ただひとり
あの子は昇っていく
何もおそれない、そして舞い上がる
松任谷由実の「ひこうき雲」が、頭の中で流れている。
奏くんを呼ぶ自分の声がぐちゃぐちゃの波になって、もう溺れそうだ。うわずって息を吸う、吐く、吸う。吐く。
今日という日に名前を付けるなら「寂しい」かもしれない。
隆を駅で見送り、久しぶりにひとりになった。途端、猛烈な寂しさに襲われる。車を切り返す。八鶴湖へ向かっていた。あの場所なら、落ち着けるはずだ。
ハンドルを握りながら、あるビジョンを見ていた。奏くんのすべての洋服を一箇所集め、そこに埋もれている自分。NorthFaceの白と黒のウィンドブレーカーを着ている彼の姿が重なる。それを真上から見ている、もうひとりの自分もいる。
今にも泣き出しそうになりながら、何度も瞬きをした。信号が良く見えない。
ものは残った。ひとは残らなかった。
家族と過ごした年末年始の6日間は、ずっと泣かなかった。ひとりじゃなかったから。でも、心はずっと、泣いていた。ひとりになった途端、6日分の涙が今にも溢れそうだった。
17:38 on my way back from 八鶴湖
帰り道。ハンドルを握って盛大に泣いた。6日分の涙だ。
八鶴湖に行けば、Cafe NOL に立ち寄る。美味しい浅煎り珈琲はもちろん、ここのマスター(という呼び名はなんか違うけど)、庄司さんと話す時間が楽しみでもあり、癒やしでもある。
カフェは、庄司さんと高校の同級生である村木さんのふたりで共同経営していた。お店に立つのは、主に庄司さん。彼のやりたいことを、「良いね」と全面的に支持してくれる村木さん無しではここまで来れなかったことや、その存在をいかに大切に思っているかを、静かに、はにかみながら、彼は話してくれた。
「プレイヤーは、そういう存在がいて初めて輝ける。プレイヤーで居続けられる。」
私にとって、「そういう存在」は、奏くんだった。
カフェを出て、車に乗って、庄司さんの見送りに窓を開けて手を降って、姿が見えなくなって窓を閉めて。泣いた。なくした存在の大きさが、息が苦しくなるほどに襲ってきて、ひたすらに泣いた。
たぶん、泣きたかったんだと思う。
I miss you, I miss you, I miss you, I miss you soooooo bad.
恋しくて恋しくて、会いたくて会いたくて。
人はどうしてこんなに、ひとりなんだろう。こんなに誰かが必要なのに、なんで、ひとりで生まれて、ひとりで死んでいって、その間も、やっぱりひとりなんだろう。
今日は、苦しいでも悲しいでもない。ただただ、奏くんが恋しくて、その叶わない想いに、恋しくて悲しくて涙に溺れる。
彼はいつだって、私を全面的に認めてくれていた。褒めて、背中を押して、尊敬もしてくれて。私は安心して、信じた道を邁進することができた。それは、あなたの愛があってこそだった。
ソウルメイト。もしかすると、そんな存在なのかもしれない。
でも、早すぎる。まだまだ、側にいてくれないと…。
19:43
無性に虚しくなる瞬間がある。たとえば、片付け。
なんのために、片付けているんだろう。喜んでくれるひとは、もういないのに。一緒に喜んでくれるひとは、一番に、喜ばせたいひとは、もう、いないのに。
でも、life goes on.
人生は、私の人生は、今日もまだ、あの日の延長線上に続いている。
Life goes on.
がんばれ。がんばれ。がんばれ、私。奏くんもきっと、どこかで見守ってくれている。永遠の愛で、包んでくれている。はず。だから、がんばろう。がんばるって言葉、なんかあんまり違うんだけど、でも、今晩はこの言葉で良い気がする。がんばろう。
自分の内なる叫びに、この皮膚は薄すぎる。会いたい。会いたいよ、奏くん。
がんばれ、がんばれ。どうやっていいのかわかんないけど、でも、がんばれ。いつかきっと。いつかきっと、この悲しみが、少しは、今ほどでなくなる日がくるはずだから。涙に溺れそうになる夜や、内なる叫びや、苦しみや悲しみや、どうしようもない恋しさから、きっといつか、きっといつかは、抜けられるはずだから。だから、それまで、がんばろう。
私が、自分が、自分の側にいつだっているから。
21:03
未だに母のことが気になっている。
同時に、こわい、という気持ちもある。
でも、でも。
奏くんに電話できたらいいのに。今、どうしたらいいかな。
触れたい。抱きしめて欲しい。腕に抱かれたい。背中から抱きしめたい。見つめたい。私を見てほしい。声が聞きたい。名前を呼んでほしい。手を握りたい。キスがしたい。会いたい。会いたい。会いたい。ここにいてほしい。ここに来てほしい。側にいてほしい。そばに来てほしい。
夢で確実に会えるのならば、今すぐに眠るのに。
声にならない彼を呼ぶ声で、心が張り裂けそうになる。
写真とか、見えないところに置きたい。苦しい。辛い。悲しい。恋しい。辛い。
どこかに行きたい。
いったい、どうしたらいいのだろう。
誰かといる時間の後にはこの寂しさが来るのなら、ひとりでいたほうがいいと思ったりもする。
こうして辛く苦しくどうしようもない思いをするのなら、もう二度と、誰かと愛し愛される関係になることはなくていいと思ったりもする。
こんなに泣いても、まだ涙が出るだなんて。6日分の涙。溜めるのはもういやだな。