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「旦那さんは元気ですか」
母のその言葉は、想定済みだったと言える。だから、家族7人で集まった際の席順は、私を守るように弟妹が私を挟んで座り、そこは母の席から一番遠いところのはずだった。
でも、その一番向こう側から、その言葉はやってきた。あんな破壊力を持った言葉を聞くことは、これからもそうないだろう。
食卓は凍りついた。時が止まった。とっさに、弟・隆が話題を変えた。
心のざわめきが消えないうちに、まさかの二回目がやってきた。
「旦那さんは元気ですか」
「…。奏くんはもういないんだよ」
やさしい声音にのせて返せたことを、自分でも密かに驚き、またありがたく思った。母は、「そう」だったか、「そうだ」だったか言葉を発してから、「失礼しました」と言った。
母の心中を想像すると、引き裂かれそうになる。娘の旦那が亡くなったことを忘れていて、「元気か」と家族皆の前で聞いてしまった自分。…。自動制御がかかった。無理だ。だめだ。そんなの、辛すぎる。
母に電話してフォローしてあげるべきなのだろうか。
でも、私も相当にやられている。疲労困憊したのだろう、翌3日は何をする気も起きなかった。
電話はやめておこう。
もう二度と、あんな思いをしたくない。耐えられない。