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久々に小説をぽちっとした。勢いで。
それは夜ご飯の支度中。研いだお米に十穀米の素を入れ、30分の浸水時間にタイマーをセットする。今夜は冷凍の陳建一の麻婆豆腐にする予定だ。お豆腐の賞味期限はもう3日過ぎている。なんの勢いか、朝吹真理子さんの「きことわ」のKindleをポチった。ずっとずっと、気になっていたのだ。
白ワインとチップスとキャンドルに、今季初のストーブ。いいじゃないか。
「きことわ」を読み始める。
それは、割とすぐのことだった。
葉山。逗子。134号線。水族館。三浦半島。地層。
うそでしょ
奏くんと暮らした葉山での4年間が、分厚い波のように形を変えて何度も襲ってきて、話に全く入り込めない。あれ以来初めて手にした小説。よりによってなんで葉山が舞台なんだ。
いや、舞台が葉山であることになぜ気づかずポチったんだ。泣きたくなってきた。
タイマーが音を立て、飛び上がって驚いた。驚いたことにも驚いた。タイマーを止め、炊飯器のスイッチを入れる。
…せっかく買ったのだ。もう少しだけ…。
「夢」
この言葉が完全なトリガーになって、涙の堰は切られた。頭の中も心の中も、あの日の夢に葉山の日々で溢れていた。
小説もやっぱり読めない。
どこに、トリガーが潜んでいるか、わからない。
.
奏くんの洋服を眺めていた。
これ、どうしたらいいのかな
売る想像をしてみる。
でも、…
もどってきたらこまるんじゃないかな
もうわけのわからない、けいたいをかいやくするときもおもったあのかんかく
もどってきたらこまるんじゃないかな
そう思った自分に驚き、次いで猛烈な感情が襲ってきた。
もどってきたらだなんて
もどってきたら
だなんて
内側からの炎に焼かれ一瞬で灰になった気がした。
あの日、
もっとはやくに、いっていれば
もっともっと、もっと
できることはあったのに
誰かに、責められても仕方がない。その死の責任は、ただ私ひとりの身の上に。あなたと結婚していなければ、あなたと付き合っていなければ、あなたと出会っていなければ。どこからかその言葉が矢のように飛んできても、致し方ないのだ。
そうとしか感じられずに、吐きそうになる日もある。
一方で、周囲にいる誰もが、そんなことはしない言わないだろうこともわかっている。
でも、時折こうやって、そんな声に侵食されて、あちらへと引きずり込まれそうなときもある。
いつか、いつか、いつか、
このあえぐような苦しみと悲しみとどうしようもなさに、溺れてしまう不安がなくなりますように