23:45
寝室のブラインドを下ろして、黒い小さなツマミを回して灯りをつける。
地球儀ライトのオレンジ色の灯りが、ぼんやりと一角を照らす。奏くんの伯父だったか祖父だったかが使っていたライト。色を失ったヒマラヤなど高い山々の凹凸に、年月を感じる。
今朝の夢に、奏くんが出てきたんだ。なのに思い出せない。
昨夜は、泣きながら写真を辿り眠りについた。そんな夜はいつぶりだろう。泣き崩れたり取り乱したりはしなかったはずだけれど、朝起きて鏡に映ったのは、すっかり泣き腫らした目をしたひとだった。
今夜もまた、写真を見てから眠れば夢で会えるかな。なかなか辛いうえに、明日は打ち合わせも多数控えているからな…。
昨日の夢の内容が思い出せないのが悔しい。もはや、本当に見たのかなんて疑ってしまいそう。
なんとか夢で会えますようにと、祈るようにして眠りにつく日々。
でも、なかなか会えない。
9月24日から25日にかけての夜を思い出す。奏くんの実家で、奏くんの部屋の天井を見上げながら、真夜中に流れ出したあの思い出の曲。叫び出したいような、泣きわめきたいような、頭がおかしくなりそうな。
あの曲は、二度と、一生、耳に入ることがありませんように。奏くんお願い、力を貸してね。
あなたとの記憶を、もうこれ以上、上書きしたくない。
それに、取り乱さない自信だってない。
ひとりで聴きたくないし、あなた以外の他の誰とも共有したくない。
自分の内にある、大きな傷の存在に気がつく。
聴きたくない曲。聞きたくない話。見たくない光景。見たくない物。
それでも今日、あれ以来初めて、目にしても心が大きく乱れることがなくなったものがあった。まだ言葉に出すのは抵抗があるけど。
こうやって、少しずつ、時が流れて、私も変わっていく。