3ヶ月目

2018/11/19 記憶の上書き

23:45

寝室のブラインドを下ろして、黒い小さなツマミを回して灯りをつける。

地球儀ライトのオレンジ色の灯りが、ぼんやりと一角を照らす。奏くんの伯父だったか祖父だったかが使っていたライト。色を失ったヒマラヤなど高い山々の凹凸に、年月を感じる。

今朝の夢に、奏くんが出てきたんだ。なのに思い出せない。

昨夜は、泣きながら写真を辿り眠りについた。そんな夜はいつぶりだろう。泣き崩れたり取り乱したりはしなかったはずだけれど、朝起きて鏡に映ったのは、すっかり泣き腫らした目をしたひとだった。

今夜もまた、写真を見てから眠れば夢で会えるかな。なかなか辛いうえに、明日は打ち合わせも多数控えているからな…。

昨日の夢の内容が思い出せないのが悔しい。もはや、本当に見たのかなんて疑ってしまいそう。

なんとか夢で会えますようにと、祈るようにして眠りにつく日々。

でも、なかなか会えない。

9月24日から25日にかけての夜を思い出す。奏くんの実家で、奏くんの部屋の天井を見上げながら、真夜中に流れ出したあの思い出の曲。叫び出したいような、泣きわめきたいような、頭がおかしくなりそうな。

あの曲は、二度と、一生、耳に入ることがありませんように。奏くんお願い、力を貸してね。

あなたとの記憶を、もうこれ以上、上書きしたくない。

それに、取り乱さない自信だってない。

ひとりで聴きたくないし、あなた以外の他の誰とも共有したくない。

自分の内にある、大きな傷の存在に気がつく。

聴きたくない曲。聞きたくない話。見たくない光景。見たくない物。

それでも今日、あれ以来初めて、目にしても心が大きく乱れることがなくなったものがあった。まだ言葉に出すのは抵抗があるけど。

こうやって、少しずつ、時が流れて、私も変わっていく。

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