24:45
朝。
いつものように、祭壇の前に座る。
いつものように、2人分の白湯にお花を添えて、奏くんにお線香をあげる。
いつものように、目を閉じて、祈る。
ふと、奏くんに包まれている、そう感じた。
奏くんが私をあたたかく優しい包んでいる。
流していたモーツァルトの曲が止まる。パシッパシッという感じの不思議な音が、2回聞こえた。奏くんの自転車が置いてある方からだろうか。
昨日の紀亜との会話を思い出す。
「奏くんは側にいるよ」と言ってもらえるけれども、なかなかそう感じられない。果たして本当にいるのだろうか。「どこにいるの?」毎朝、そう奏くんに問いかけることから祈りは始まる。そんな話をしていた。
これが奏くんの返答なのかもしれない。
モーツァルトが再び流れていた。
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作品展示の準備で、Cafe NOL で紀亜とイッセーさんと作業をする。
合間に今朝の話をすると、イッセーさんが自分の体験を話してくれた。
イッセーさんのお祖父さんが亡くなり、告別式があった。家族みんなで祖父母のお家に戻り、お祖母さんと一緒にドアを開けた。「お祖父さんがいる」。その気配がリビングのほうから漂ってくるのを、そこにいる全員が感じた。もちろん、リビングのドアを開けるとそこには誰もいない。それでも、家族全員が「いたね」という感覚を共有していた。
不思議なことは、たくさんある。
奏くん、あなたが側にいると、私を包んでいてくれていると、そう感じることができて、それがどれほど嬉しかったか。
そしてそれを感じさせてくれたこと。なんて有り難いのだろう。
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紀亜が言う。私を遺して先に逝ってしまったことに、奏くんは心残りはあるだろうけれど、世俗的なことではなく、私が大丈夫だと思えるようになるまで側にいるんだと思う。
涙が出てしまう。
紀亜は、私をただ泣かせてくれる。
それがどれほど助かることか。
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今日初めて体験する感情があった。
「この家にいたくない」。
自分でも驚くほどに、強い感情だった。