16:56
仕事をする。
いつものように、期待の上を行けるよう、必ず少しは背伸びをし最善を尽くす。
いつものように。
なのに、何かが決定的にちがう。決定的に、全然違う。
奏くんに褒められたり、奏くんが喜んでくれたり、奏くんが誇りに思ってくれたり。私を動かしてくれていたのは、そう言うことだった。
奏くんを通して見る「私」が、「私」だったのかもしれない。
だとしたら。
私は、「私」をも失ったのだろうか。
18:56
集中して仕事をするその一瞬の切間。まるで狙っていたかのように、その隙を目掛け、思い出が突如として流れ込んでくる。
帰り道にあった246沿いの板蕎麦山灯香に時折立ち寄った。初めて連れて行ってくれた時の「こんな素敵なところに連れてきてくれるなんて、なんて素敵な人なんだ」とドキドキしていたその気持ち。運転する横顔、そのシルエット、その声、夜の246、お蕎麦、待っている人。
たった数分前と変わらず、同じ姿勢で、同じ画面を見て、今は涙を流している。
苦しい。辛い。恋しい。会いたい。
失われた日常が、今は猛烈に恋しい。
しばらくは涙が出るままに、その悲嘆を自分で受け止める。辛いよね、苦しいよね。会いたいよね。恋しくてしかたないよね。涙が出ちゃうよね。
こんなに恋しがってる私の想い。きっと、奏くんに伝わっているよ。
新しい奏くんとの関係を築いていくところに、もう来てしまったんだ。それしかないんだ。それはきっと、やればできることだから。
仕事にもどろう。