2ヶ月目

夢でも良いから、あなたの記憶を増やしたいんだ

シャワーをしていて、急に思い出した。

奏くんの夢を見た。

奏くんが歌っていて、はっとする。「録音しなきゃ!」。急いでiPhoneを出し録音を始める。いつも歌っていた「ガラス越しに消えた夏」だっただろうか。

前後を思い出したい。

熱いシャワーのなかでじーっとして集中してみたけれど、出てこない。

…いいんだ。泡沫の夢でも、自分の内部で発生するだけの夢でも。奏くんに会える、奏くんと話す、奏くんとなにかを交わす。それだけで、こんなにも嬉しいから。

また夢に出てきたら良いな。よろしくお願いします。

奏くんの歌を録音しておけば良かった。私の後悔のひとつ。夢に見るほどに。

17:45

土曜辛い

土曜の夕方、いつもなら、楽しく料理しつつ飲み始めるところなのに。奏くんのバカーーーー

19:11

奏くんの部屋にルンバかけてホコリも払う。キレイになった。

本当にさ、なんでこういうことを、生きている時にやってあげられなかったかなーーー(涙)

明日は、一宮のサンライズで、奏くんの幼馴染を中心としたサーファーたちが集まるパドルアウトセレモニーがある。

彼らとの前日のやりとり。考える(しかも感情がやたら動かされる)ことが多いと、正直疲れる。

河井さんの持ってきてくれたシャンパンを開ける。奏くんにも、と、もうひとつのグラスに注いで祭壇の前に座る。乾杯して口をつけ、少しの間のあと、涙が溢れてくる。泣いて泣いて、腹も立てながら、泣いて、泣いた。

電話が鳴る。ケイくんだ。あまりに泣いていたから、落ち着いてから電話かけ直した。間髪入れずのケイくんの「どうした?」の声に、またすごい泣けてくる。

タイミングが良すぎる。奏くんが電話させたんじゃ…?

どれだけ泣いたら、涙が止まるんだろうか。今日は、止まる気配がない。

食欲がまったくない。

目の前にはイチジクとルッコラと、大好きな季節のひとさらが待ち構えているのに。

明日のセレモニー。目を腫らして行くわけにいかないのに。

戻ってきてよ。

私、もっと良い奥さんに、良い妻になるから。ちゃんと健康を管理して、家事もちゃんと甘えずにやるから。

どんなに悔やんでも、悔やんでも、悔やんでも、もう遅い。もう戻れない。一生。

「この経験を経て、強くなるから、そしてすごい優しくなるから」。

ケイくんはそう言ってくれた。

たくさんの人たちの助けをもらって、結局は私が、自分自身で越えていくしかないんだ。

こうやって、ただひたすらに、あなたの不在が悲しすぎて、打ちのめされるときもある。

21:28

おきまりの奏くんの動画を見て、くすっと笑ったりして、落ち着いた。

明日は8時半には、奏くんのサーフボードを取りに友人たちが来る。目指せ、7時起床、11時就寝。

泣き疲れて寝れそうな気はする。

.

なんで急変したんだろう。

順調だった。透析は週3から週2になりそうだったし、リハビリも来週から立つ練習、と言われていたし、ごはんだって、数日前には固形の魚が出るまでに回復してきていたのに。

大部屋に移る話だって、その日にあったのに。

5週間前の今日、この時間。奏くんの夕ご飯に付き添い「またね」と病院を出て家に戻り、今日の夕飯と同じもの、イチジクと生ハムとルッコラのサラダを食べ、スナフィーに長いお留守番をしたご褒美の牛の骨をあげた。22時18分に、「今日はゆっくり話せて楽しかった、おやすみ♡」の、Lineを入れる。22時20分。病院では奏くんが、見回りに来た看護師さんに、痰が、と訴え、看護師さんが痰を取るための機械を取りに行く。戻る。吐血。暗い部屋で手にしたiPhoneに光る「成田赤十字病院」の文字。「容態が急変」。Lineが既読になることはなかった。

土曜日は辛い。

ワインを飲んで、泣く。泣いて、泣いて、泣いて。お酒を飲むことで、感情をリリースしている気もしなくもない。基本はグラス2杯以上は飲まないから。週1は休肝日してるし。

今は、苦しいから、しかたない。

お風呂に入るのも良いとは思うんだけど、体がとても重い。

いったいこれから、どうなっていくんだろう。

もし、死後の世界があるのだとしたら。そこで、また会えるのかな。あなたの優しさに、あなたの面白さに、あなたの温かさに、純粋に包まれながら、一生、次こそは一生離れずに一緒になって。ずっとずっと、一緒にいたい。ひとつになりたい。なれたらいいのに。

今日はまた、夢で会えるかな。

夢でも良いから会いたいよ。やっとそう思えるようになったよ。夢で、また違う顔を見せてほしい。新しい何かを見せてほしい。夢でも良いから、あなたの記憶を増やしたいんだ。

過去の、もう変わらない記憶を、何度も思い返すしかないだなんて。

だったら、夢でも良いから。

22:20

奏くんの黒T。寝る時の定番。

今夜は気温が下がらない。でも、窓から入ってくる風は少しだけひんやりしていて気持ちいい。

奏くんのiPhoneを手に取り、写真や動画を眺める。勝手にごめんね。

初めて見た時、自分が結構写っていることに驚いた。

でも、…OFFなシーンが多いし、後ろ姿と歩いている姿がなんだかよろしくない。ちゃんと整えないと。それは撮らなくなるよ…。

声をこうして好きな時に聴けるって、なんて素晴らしいんだろう。もっともっと、声をたくさん撮っておいたらよかった。

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