16:30
8月1日に奏くんがこの家を不在にしてから2ヶ月が経った。
ICUにいた始めの一ヶ月と、そこにすらいないこの日々は、まったく別のものだ。
ICUの日々。戸惑いと、不安と、祈りと。でも、そこには奏くんがいた。体があって、それが人工だとしても、呼吸をして、心臓が動いて、体は熱を帯びていた。意識はなくとも、そこには手を伸ばせば触れられる実体があった。拠り所が、重力の中心が、そこにはあった。
今は違う。
まるで埋まることのない、暗い「無」が、自分の内に常にある。
20:17
梨衣ちゃんと別れて、バイバイって言って、車を発進させる。
途端に、猛烈に寂しくというか、虚しくというか、そういう感覚が襲ってくる。
でも、と、思う。でも、家ではスナフィがお留守番をしてずっと待っている。だから、できるだけ早く帰ってあげなくちゃ。
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スナフィがスヌーピーで遊んでいる。いつものように、サディスティックに振り回し、食いつき、そしてちゅうちゅう。いつもなら、と、思う。いつもなら、横でMacかなんかを触っている奏くんに、「スナフィのちゅうちゅうがはじまったよ」なんて、笑いながら言っているところ。いつもの光景がここにあるのに、奏くんがいない。
奏くん。今日初めて、奏くんの行きたがっていた銚子丸に行ったよ。一緒に行きたかったよ。
猛烈に寂しい。
猛烈に苦しい。
そして、その奥底に、湧き上がる怒りを感じる。
なんで、なんでこんなことになっちゃったの?
あなたと、わたしと、どちらもが変えていければ、もっともっと、別の道を、今も共に行けたはずなのに。
指輪に彫ったじゃん、「parri passu」。共に手と手を取って歩んでいこう、って。結婚してからまだ6年にも満たないんだよ?出会ってから、ちょうど10年の節目だったんだよ?短すぎるよ。ひどいよ。
感情の嵐に、気持ちや、思考や、私そのものが、振り回される。吹き飛ばされそうになる。
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明日は絶対にゴミを出さなくては。