病院での1ヶ月

これは修行なのか

8:12

6時に目が覚める。昨夜の散々泣いた余波か、体が動くまで、ベッドから出れるまで、1時間くらいかかった。やっとのことで散歩へ出る。スナフィが何度も「これ以上進みません」になる。正直、イライラが募っていた。

歩きながら、奏くんは昔からあんなにお酒を飲んだり食べたりする人だったんだろうか、とふと思った。…もしかして、私がストレスを与えそうなっていたんじゃないだろうか。

帰宅。気分が落ちに落ちている。カウチに横になる。スナフィが騒ぐ。おもちゃに激しくアタック。その勢いで私の上を駆け上がる。激情。一気に何かが切れて、スナフィを軽く足蹴にした。なんて酷いことを。自己嫌悪がピークになり、泣けてくる。泣く。

まずい。

どうしよう、どうしよう。

仕事もしないといけないのに。なんて苦しいんだ。

これは修行なんじゃないか。

今日は午後イチに打ち合わせがある。…良かった。こんな沈み込んでいる場合ではないのだ。

9:48

病院の医療福祉相談室に電話をする。

療養時には、金銭的なことから精神的なことまで、様々な困りごとが次々にやってくる。そんな時に、社会福祉士や精神保健福祉士といった専門の方に相談できる、医療福祉相談室、というものが成田赤十字にもある。ICUにいた頃に、看護師さんや事務の方からその存在を教えてもらう。「困ったことがあったらいつでも相談してみると良いですよ」。そう言われていたことをこのタイミングで思い出した。

電話口の担当者が親身になってアドバイスをくれる。

意識レベルが良いのであれば「トイレはおむつにして」と言う。本人がストレスに感じているのであれば、まずはその思いを受け止めて、精神科の先生に診てもらうことも検討する。

意識レベルが悪いのであれば、流して聞いたり、「動けないからね」、と言う。そして、席を外してみる。面会の時間を短くする。

その上で、どんな声掛けが良いのか、せん妄が専門の看護師さんに聞けるようにしてくれることになり、折返しの電話をもらうことに。

せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。

MSDマニュアル家庭版「せん妄」

この一ヶ月、気が抜けるタイミングが全然ない。

23:30

お昼頃に、医療相談室から折り返しの電話があった。「ケイビイカンが抜けましたよ」と。

それなんぞ、と思ったら、「経鼻胃管」だった。経鼻胃管を通して直接胃に入れていた栄養との相性が悪いようで、目が覚めてから(もしかするとその前から?)ずっと下している。「経鼻胃管が抜けたので、下しているという問題自体が解決するのでは」。これが解決すると、本当に大きい。奏くんにとって、そして、私にとって。丁重にお礼を伝えて、安堵の中電話を切った。

15時半からの打ち合わせに備えてカツ丼を食べる。カツ丼。「元気になったなぁ」と、しみじみする。カツ丼を食べながら、サラメシを見る。サラメシを見ながらご飯を食べるのが好きだ。

今日は良く仕事をした。看護師でもある同僚、泉川さんとの打ち合わせ。前半30分をかけ、彼はとても親身になって話を聞いてくれた。「看護師さんに相談しにくい」、と言うと、「忙しい看護師さんたちだから、言ってこなかったら問題なし、と思っているのかも。もっと気軽にナースステーションにガンガン行って相談して良いのだ」と、強く背中を押してくれた。

19時前に奏くんのご両親から電話がある。奏くんに代わってくれる。電話口で奏くんの声が聞けるなんて…。ICUで、横たわって目を覚まさない奏くんに、目を覚ましてほしい、声が聞きたい、と、心の中で叫びながらひたすらに泣いていた、ついこの前のことを思い出す。ローラーコースターのような日々。今はこうして、電話越しに声が聞けるようになった。電話を切って、目を閉じる。その尊さが、呼吸とともに体中を巡るに感じ入っている。

梨衣ちゃんが夕ご飯を持って家に来てくれる。お寿司、ゴーヤの美味しい炒めもの、梨。23時くらいまで良く話した。私や奏くんのことを心から心配し気にかけてくれて、ごはんを作ったり、仕事の帰り道に途中下車してお寿司などを買って来てくれる。奏くんが落ち着いたら、梨衣ちゃんをもてなす会をしよう。

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