病院での1ヶ月

人工呼吸器

7:20

今朝のスナフィ散歩は、少し足を伸ばして剃金海岸に行ってみようかと思い立つ。ビーチ散歩といえば剃金。…ひとりで行くことがあるなんてな。改めてルートを見ていたら、頭の中に突然、たくさんのカメが産卵のため砂浜に上がってくるシーンが浮かんできた。

そうだ。これは今朝の夢だ。いい夢だな。

よし。剃金に行こう。

9:24

疲れが溜まっているな、と感じる。

朝ご飯はちゃんと食べた。梨衣ちゃんの持って来てくれたご飯に、紀亜が買ったナスの辛子漬けと塩昆布とでお茶漬けにして、ピクルスとお味噌汁も添えて。

疲れていても、奏くんに会いたい。

奏くんの側に、少しでも長くいてあげたい。

だから、がんばろう。

14:25 @華の湯

午前の面会が正午に終わる。午後の面会までは、5時間以上ある。

近くの銀行で所用を済ませ、「疲れてるし鰻とか良さそう、成田だし♡」なんて軽いノリで鰻を目指したら、ランチ難民になった。なんでこんなにも長蛇の列列列なんだ。何軒目かの鰻屋さんの行列で、お盆だってことにようやく気がついた。

鰻で回復するはずが、食べれず余計にぐったり。しかも、午前の面会を引きずって、気分も少し落ち込み気味だった。こんなときは、と、病院の近くにあるスーパー銭湯でお風呂に入ってマッサージを受けて、ゆっくり休んでから夕方の面会に行くことにした。

午前の面会。

ICUに入ると、奏くんの上体が起こされていた。

手術から2週間もの間ベッドに横たわっていた奏くんにとって、上体を起こすのは大事なリハビリの一環。でも、相当に疲れるのだろう。ぐったりしているように見えるし、だいぶ苦しそうだ。

看護師さんが、腕を拘束するかと私に聞いてくる。意識のある奏くんが聞いている(だろう)。躊躇いつつも、「お願いします」と答えた。

S先生が状態を教えてくれる。酸素濃度はだいぶ良くなって、60まで落ちていた。理想は40。「様子を見て、夕方にでも人工呼吸器を外せれば」と先生が言う。とは言え、痰が絡んでしまう危険性がまだ小さくないので、安全を期して明日以降がいいかと、とも。ぜひ万全を期してほしい。腎臓の状態については、尿の量はまだまだ少ない(30くらいと言ってたかな…)、と。これは時間がかかることだ。

奏くんの意識が午前より一層はっきりしているのがわかる。

看護師さんの動きを目で良く追っている。

自分の足をじっと見る。何を思っているのだろう。

奏くんが、その両足をバタバタさせる、私の手をぎゅっと握る、そして、苦しそうな表情をする。「疲れたようなので」と、看護師さんがベッドをほぼフラットに戻す。

苦しそうに顔を歪めて、私に何かを伝えようとしている。何度も、何度も。けれども、わかってあげられない。その上、どんな言葉をかけてあげたらいいのかが、分からない。戸惑い動揺しながらも、「大丈夫だから」とか、「側にいるから」と言葉をかけてみたけれど、首を横に振られた…。そうだよね、「大丈夫」じゃないよね…。

…いや、私がそんなことで凹んでどうするんだ。苦しいのは奏くんなんだ。支えるって、決めたじゃん。

昨日は良く眠れなかったみたいで、ぐったりしているのはそれもあるのだろう。落ち着く薬を少し入れいてるとのこと。少しでも眠れたら良いのに…。

ポジティブなこともある。今日の奏くんは良く動こうとする。足の動きがずいぶんと力強さを増していた。なんか小さい子どもみたいで、嬉しくて思わず笑っちゃった。

小さな音で、ラジオが流れている。昨日の夕方の面会で「ラジオが」とご両親に言ったら、「午前からかかってるよ」と。午前も行ったのに、全然気がつかなかった。山崎まさよしが流れていた。

21:15

疲れていても、毎日だとしても、それでも全然いい。今日も、明日も、毎日顔が見たい。側に行きたい。

久々に、わーっと泣く。泣きまくる。滝。洪水。

昨日は、私を見てくれて、手を握ってくれて、うなづいたり首を振ったりしてくれて、ただそれだけで十分だったのに。今日は、声が聞きたい、わかってあげたい、そして現実とのギャップに、できないことに、苦しくなってしまう。

私になにかを伝えようと一生懸命なのに、口の動きや目や表情でわかってあげることができない。もどかしくて、ごめんねごめんねって、いう思いで苦しい。

一体、どんな言葉をかけたら少しでもプラスになるのだろう。自分の不甲斐なさに苦しい。

奏くんが今夜は眠れますように。眠れて、状態が良くなって、1秒でも早くに人工呼吸器が外れて、あの苦しさから1秒でも早く解放されますように。

泣き疲れて、泣き止む。

…奏くんの苦しみを、ちゃんと理解しないと。調べよう。

ICUで人工呼吸器を装着している術後の患者さんが抱える主な精神的ストレスは、

話すことができない
挿管の痛み
緊張あるいは不安
憂鬱あるいは悲観
拘束されている
何かよくないことが起こるかもしれない
セルフコントロールの欠如
状況と処置についての理解不足
→ 回復への意欲に着目して、支え、さらに促進する援助が必要

集中治療室入室中に人工呼吸器を装着した術後患者の回復を促すための看護援助の検討
茂呂悦子 中村美鈴
Journal of Japan Academy of Critical Care Nursing Vol. 6, No. 3, pp. 37-45, 2010

奏くんの場合は、

  • 人工呼吸器装着日数:8月1日〜(13日目)
  • 集中治療室滞在日数:8月2日〜(12日目)
  • 鎮痛剤の使用:yes
  • 鎮静剤の使用:yes

やれることは、

  • 手足をさすって痛みやついらいと感じるとこはないか確かめる
  • 励ましの言葉をかける

よし、明日は、これをやってみよう。

またひとつ、新しいチャレンジがやってくる。最初の頃のチャレンジと程度の差はあれど、目の前にやってきたそれに最善を尽くす、ということは変わらない。

泣く。一度落ち込む。でも、そこから調べたり聞いたりして知識を得て、奏くんの状態や思いへの理解のきっかけを少しでも掴んで、状況を少しでも良くできるようアクションを取ることはできる。

やれることはいつだってある。

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