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奏くんの夢を見た。いや、奏くんが夢に出てきた。
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どこかを歩いている。宮前平?宮崎台?いや、二文字だったかもしれない。さっと、奏くんの姿が見えなくなる。姿を探して、小さな路地に入る。
黒い大きなバックパックを背負った彼の後ろ姿。あれは、台湾に行く時に買ったやつかもしれない。右後ろから追いつくと、彼が振り返った。恵比寿で初めて出会った時の、その表情だった。
「どんどん短くなっていくんだ」
腕を上げ、その腕や手を見ながら、苛つきが少し混じる声で独り言のように言った。言われてみれば、上げたその腕も、後ろ姿も、いろんな部位で確かに少しずつ、短くなっているようだ。バックパックがやたらと大きく見えたのを思い出す。
それが意味することが分かる。「どんどん体が消えていく」と言い換えられるのかもしれない。成仏に向かっている、ということなのだろうか。
明晰夢ほどの明晰さはなくとも、その理解に、ちゃんと伝えようって思う。安心してほしい。
「短くなってても、なんでも、私は奏くんのことが好きだよ」
暖かな気持ちを込めて、たぶん微笑みながら、彼の目を見つめて伝えた。
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ある占い師は、「夢で言うことがメッセージだ」と言ったのを、起き抜けの頭で思い出す。短くなっていく体に苛ついていた彼の様子を思い出す。直後に、はっとした。夢の続きを思い出して、途端、猛烈に恥ずかしくなったのだ。
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カウンターのある明るいバーのような立ち飲み屋のようなところにいる。カウンターの1番右端には奏くん、その隣に座っていた。
彼がいきなりそこに手を入れてきて、イカせようとする。戸惑う。周囲のお客さんやお店の人が気になりすぎる。一向に気にする様子のない彼は、それを続ける。クライマックスを迎えた感じになると、「イった?」と彼が聞く。「…うん」、と答える。周りに人がいすぎて今一歩集中出来なかったよ、と、本当は思いながら。
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猛烈な恥ずかしさに、意識が飛びそうになった。
だって、…書くのは恥ずかしの極みだけれども、実は昨夜寝る前、生理前だからかしたくなってしまい、結局、ひとりでしてから眠った。
…それを見てたのか!?だとしたら恥ずかし過ぎる…
…でも結果として、だから出てきてくれて、夢でそれを叶えてくれた、ということも出来る。
昨夜は初めて、彼を想って泣きながら、その名前を声に出すよう出来る限り頑張ったんだ。「声に出したほうが伝わる」って、占い師さんに聞いたから。声にした彼の名が宙に消えていくのは、辛く悲しくやり切れない。だからずっと避けていた。でも、それで伝わるのであれば。昨夜は勇気を出して、8回くらいは声にしてみた。
…伝わったのかな。
いや、伝わった、ということなのだろう。