8ヶ月目

たられば

18:28

後悔にまみれている。

枯れ草色に若草混じる田舎道をスナフィと歩く。散りはじめた桜の花びらを、スナフィの小さな足がさくさくさくと踏んでいく。桜舞うぼんやり空に、4月生まれの彼の好きだったところを、ひとつひとつ思い浮かべていた。

Ladies and gentlemen, まず何よりも、奏くんと言えば、話が上手い。すべらない話と言った、所謂べしゃり好きで、番組や動画を見ては研鑽を積んでいた(結果的に)。「千原ジュニアを見て学んだほうが良い」とは、ダラダラと話が長い私に下す彼の指南。人を笑わせ自身も良く笑った彼の周囲には笑いが絶えなかった。鏡に向かって自分を笑わせ笑っているのを見たときには、ここまでかと多少引きつつも、そのクレイジーさ加減を愛していた。

彼の姿を見ているのも好きだった。顔もタイプで、180ある長身に水泳とサーフィンで出来上がったガタイの良さ。動けば機敏で運動神経も良い。常に動いちゃうその身体には天性のグルーヴ感があり、しかも歌が上手かった(初めて行ったカラオケで聴いた甘い歌声は忘れない)。センス良し、先見の明あり、ハマり症。世の中が気が付く前に、ピスト、ファットバイク、タイニーウープと、その興味関心に続く探究は留まることを知らず。つまりは、ひとり遊びの天才だった。

風が吹いて、桜が舞う。すれ違った年配の女性に、スナフィが愛想を振りまく(優しくて高い声を持つこの年代の女性は、彼の大好きなタイプだ)。「お散歩できていいねぇ」。くしゃっとなった女性の笑顔と声に、スナフィの尻尾がお尻ごと揺れた。

「ありがとうございます。ではまた」。女性の後ろ姿を見送る。喉に触れる。うまく声が出て良かった。

「大丈夫?」

彼の口癖が、聞こえた気がした。

家族想いの人だった。彼にとっての一番は家族で、それを体現していた。口癖の「大丈夫?」は、眠りの最中にすら発せられる。眠る彼の横で本を読む私が体勢を変えるただそれだけで、眠りながらの寝ぼけ声で「大丈夫?」が飛んできた。(マンネリ期にはそれを聞くのが嫌だった、だなんて、その頃の私を殴ってやりたい。)

何があっても、私の味方でいてくれた。
どんなときでも、私を信じ、私を愛してくれていた。

Shoulda, coulda, woulda.
ああすれば、こうすれば。あぁ。たらればに押し潰されそうだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です